生活を彩るうつわ

  • 2013.5.5


生活を彩るうつわ。
 
つるりとした白が美しい磁器や、光の加減で表情の変わる焼き物、国や地域によって様々な種類があって、中にはその範疇を越えてアートとして存在するものもあります。
そう考えると、私たちの生活においてうつわは一番身近なアートかもしれません。
 
私の好きな食器メーカーに<ヒース・セラミックス>があります。
シンプルでとても機能的なフォルムは建築でいうところのモダニズムに近いでしょう。ヒースセラミックスが始まった時代もモダニズム全盛期ですから、これからの住宅を意識してつくられたのかもしれません。
 

ヒース・セラミックスの始まりはエディス・ヒースという一人の陶芸作家。彼女が個展で成功を収め、個人作家の作品ではなく工業製品としてうつわを世に出そうと決めたときから始まります。
作家が自分の作品を工業製品にしてしまうなんてという批判もあったそうです。それでも彼女は、多くの人にとってシンプルで使いやすいうつわをつくりたいという信念で工場を開いたのです。
工業製品ですから型があって全て同じ形の物が大量生産されていくものです。それでもヒース・セラミックスがどんどん発展していったのには、エディスが釉薬の色の研究を重ね続けた事にもあるのでしょう。
 
ヒース・セラミックスのうつわたちは工業製品でありながら、とても温かみがあるのです。
単純に何色と決める事のできない色味。作家の想いが残された工業製品は世の中にそう多くない、だからこそ素晴らしい。
 
たまたまでかけた店にあったうつわに心を奪われて、その金額に驚きながらも悩みに悩んで結局その日のうちに買って帰ったのが私とヒース・セラミックスとの出会いでした。
私が最初に買ったのはティーポットでした。紅茶党の私にはとても使う物だし(実際には週末くらいしか使わないのですが)と自分に言い訳しながら買って来た物です。
そのうつわに書かれたHeathCeramicsの文字をインターネットで調べてみてエディス・ヒースの事を知ってからその世界にのめり込み、もっとその色味や手触りを感じてみたいと思うようになりました。
 
旧帝国ホテルを設計したフランク・ロイド・ライトが設計中のプロジェクトの為にデザインをオーダーしたという話も、建築を勉強していた私にはたまらない逸話です。
 
うつわはあればいいだけなら100円で手に入る時代ですが、それでもこういった職人たちの想いや歴史に心を向けながら使うといつもの日常がもっと美味しく感じられると思います。お惣菜を買って来て発砲スチロールに載せたまま戴くのとうつわに移し替えて戴くのでは不思議なくらい味が違うでしょう。きっとそれと同じです。
 
私たちは食事をする時、目でも食事をしているのですから。
新しい生活をはじめるとき、何か気分を改めたいなと思っているのならまずはテーブルウェアを見直してみるのもいいかもしれません。

関連する記事一覧